
京都市や名古屋市、横浜市など全国8拠点で取り組まれているプロジェクト「つなげる30人」。その発祥の地であり、2016年に立ち上がったのが「渋谷をつなげる30人」。この活動の初期から長年関わってきたキーマンたちが成果などを振り返りました。
座談会メンバーは、渋谷区副区長の澤田伸さん、同区 区長室の今井桐衣さん、東急不動産(現在、東急に出向中)の伊藤秀俊さん、渋谷センター街商店街振興組合の鈴木大輔さん。司会進行は、「つなげる30人」プロデューサーの加生健太朗が務めました。
(以下、敬称略)
●商店街に若い世代の意見をどんどん取り入れたい
加生: 鈴木さんは「渋谷をつなげる30人」に参加する前から、渋谷区内でさまざまな活動に関わっていました。地元で不動産会社を営んでいることもあるでしょうが、まだお若いのになぜ敬遠せずに街に向き合ってこられたのでしょうか。
鈴木: きっかけは会社の営業不振、経営不振です。その打開策として人脈を作らなければいけないと考えたのが入り口です。僕の父親はいっさい地域のコミュニティーに入っていませんでした。商工会議所や青年会議所もそうですし、実は渋谷センター街商店街振興組合にも所属していなかったんです。

すぐ近くにいた同業者が地域にコミットして、ビジネスをうまく回していたので、ちょっと真似をしてみようと、商店街振興組合に電話して「入会したいんですけど」と告げました。10年ほど前のことです。
何も分からないので、最初の2〜3年はただ様々な下働きをしていました。お神輿(みこし)をはじめ、とにかく時間を使って何にでも関わっていました。そうこうしているうちに、いきなり理事となり、常任理事になり、今度は常務理事になって、商店街の理事長に「超スピード出世だよ」と言われました。これって全国の商店街の課題にも関係することだと思いますがが、若い年代が動くことで、街の活性化に寄与できるのです。それから5年くらい経った時に、「渋谷をつなげる30人」に入りました。
先ほどヒデさん(伊藤さん)も言っていましたけど、地域のつながりができたことで、「渋谷をつなげる30人」の関係だけでなく毎日のようにいろいろな人から連絡が来るようになりました。仕事を含めて「センター街で何かできないかな」というお声がけが非常に多いんです。そうしたことが形になって現れたという実感はありますね。
加生: 一般的な課題として、商店会や町内会の活動は主に昔からの人たちが中心で、若者などその他大勢にはなかなか情報が届かないというものがあります。それに対して鈴木さんは意識的に動いていると思うのですが、具体的にどんなことをされていますか?
鈴木: まずは渋谷駅周辺だと思いますが、僕らの世代だけでなく、さらに若い世代ともネットワークを作り、皆で力を合わせていきたいと考えています。現に、同年代である渋谷道玄坂商店街振興組合理事の大西陽介さんを「渋谷をつなげる30人」の第4期に誘いましたし、その世代で何か成果が出ればもっと広く伝わっていくはずです。
若い世代の意見はどんどん取り入れたいですね。もうそろそろ隠居かなと思っているので(笑)。代表を務めているローカルメディア「渋谷新聞」は、中高生や大学生が運営メンバーとして活躍しています。渋谷の未来はもう僕らの年代ではなく、10代の子たちが担っていくのだろうなと感じているので、その舞台を整えてあげるのが使命と思っています。
●Do、Do、Do!
加生: 「渋谷をつなげる30人」に携わったことで得られた最大の成果は何ですか?
鈴木: 「とにかくやる」というマインドですね。ここ2〜3年、僕のやっていることはPDCAサイクルを回すことではなくて、Do、Do、Doを続けています。まずはやってみる。よく企業や役所の方も「よし、やるぞ」とは言いますが、実際に2日後に何かをやるというのは難しいでしょう。でも、僕は今それができる状況です。そのマインドを植え付けてくれたのは「渋谷をつなげる30人」かなと思いますね。
加生: また、鈴木さんには第5期あたりから「渋谷をつなげる30人」のアドバイザーとしても携わっていただいています。このコロナ禍で活動するメンバーたちを見て感じることはありますか?
鈴木: 何度かオリエンテーションに参加して、「僕ならこれができるよ」と説明していますが、メンバーからのオファーはほとんどないですね。ただ、あるイベントに対して一人のメンバーが興味を持ってメールをくれたので、見学するだけではなく、出演者として舞台にも出てもらいました。すると後日、「やってみた達成感と、やることの大切さがわかりました」と感謝の言葉をいただきました。
「渋谷をつなげる30人」に入ったことで、このプロジェクトができたという達成感や成功体験を少しでも味わわせてあげたら次につながるかなと思っています。
●組織の中に理解者を作るべし
加生: 我々は今年度「一般社団法人つなげる30人」という団体を立ち上げる予定です。渋谷を含む8つのエリアのメンバーたちをつなげていくのも然ることながら、これから「つなげる30人」をやりたい、立ち上げたいという人に対する支援をより効率的に進めていきたいと考えています。そうした新しい仲間に向けて、ぜひ皆さんからアドバイスをお願いします。

今井: 少人数でもいいので、まずは組織内で理解者をきちんと作り、そこから実現に向けて取り組まれると良いかなと思います。外から見れば何をやっている活動なのか分かりにくい部分もあるので、今回集まった皆さんのようなお話も参考にしてもらえれば。渋谷区が恵まれていたのは、澤田さんみたいな人がいたからというのも大きいです。
澤田: 区長(長谷部健区長)もクロスセクターリーダーだからね。民間やNPOの経験があるから。
今井: そうですね。ただ、こういう理解のある方が上にいないと、なかなか難しいこともあると思います。ぜひ理解者を見つけて、その人たちと一緒に始めることをお勧めします。
加生: ありがとうございます。伊藤さんはいかがでしょうか?
伊藤: 比較的影響力のある人を最初から巻き込んだ上でのスモールスタートが望ましいです。できれば決裁権者を、それが難しければ社内の調整能力に長けた人と、外部に目が向いている人の2名をセットにして、チームで取り組むとうまくいくのではないでしょうか。そして、その活動を社内に浸透させることができれば次につながるはずです。一気にホームラン狙うよりも、小さい成果を積み重ねて、積み上げた実績をしっかり社内外に伝えることが重要だと思っています。小さな花の集合体である桜の美しさを伝えたるイメージです。

鈴木: 少し視点がずれるかもしれませんが、最近は「主催者になれ」といろいろな人に言っています。100人のイベントの参加者は覚えてもらえないけど、主催者は100人から覚えられます。逆に中途半端な参加はしない方がいいです。やるならば中心メンバーになって、それだけにコミットした方が絶対に成果が出るとお伝えしたいです。
●解を求めるのではなく、問いを作る
加生: ありがとうございます。澤田さんはよく都市経営や都市間連携といったキーワードを口にされています。そうした観点でこの「つなげる30人」の取り組みをどう見ているのかお聞かせください。
澤田: 都市間連携の都市とは、基礎自治体を指しています。東京都と大阪府が組んだって大きすぎて時間が膨大にかかるでしょう。なぜ基礎自治体がつながるべきなのかというと、そこにお客さまがいるからなんです。営みがあるからなんです。最もお客さまに近いところでサービスを提供しているチームがつながらないと、地域や社会に変化を生み出すのは難しいですよね。
「つなげる30人」も立場は違えど皆、地域で営みを起こしている人たちが集まっているじゃないですか。そこが大きなポイントですよね。テクノロジーがどんどん進化して、メタバースだとかいろいろな動きがあるけど、すべては人が中心です。
でも、ほとんどの都市は中ばかりを見ていて、お金がない、何々がない、だからうまくいかないと、ないものねだりです。一方で、補助金なんて当てにせずに、自力でやって成功している街もあります。今はVUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)の時代といって、コロナ禍も含めて何が正解なのか誰も分からないですよね。だから嘆きを言う前に行動するしかない。

日本の人たちはずっと「Think」(考えること)ばかりやっています。それと「discus」(議論)。でも、やるのは「Do」です。行動しなければ何も起きないから。解がないなら行動しかない。それなのに、ずっと解を探してThinkとdiscusばかりしている。
最近は、素早いことを「アジャイル」と言いますよね。これも実は古い概念なんです。渋谷区が目指しているのは「スプリント」です。アジャイルなんて生ぬるい、高速ダッシュで走ろうと。他の都市なら5年かかることをたったの1カ月でやり切ります。そうすれば生産性が高まって区民の負担も減るわけだから。とにかくやってみて、やりながら修正をすればいいのです。
もう一つ、VUCAの時代に必要なのは、問いを作る力です。解を求めるのではなく、問いを作る能力を、企業も行政も商店街の人たちも持たなければいけません。「渋谷をつなげる30人」の底流にはそれがあると思います。活動において「はい、これが渋谷の課題です。課題解決のために皆で議論してください」というやり方はしていないよね。ただし、問いを作る力って、とても高度なのです。
加生: だから最初は参加者の皆さんも混乱しています。
澤田: でも、あの混乱が重要なポイントなんだよね。
加生: 図らずも鈴木さんの「Do、Do、Do」と、澤田さんの「スプリント」がつながりましたが、Doを高速化するにはコミュニケーションコストをゼロにする必要があると感じています。そのためには強固たる信頼関係、ツーと言えばカーという関係性が街の中にあり、しかもセクターや年代を超えて存在している状態が前提条件のような気がしています。

澤田: 先ほども言いましたが、都市は人と人がつながることが最大の価値です。良い都市には、人と人とをコミュニケーションコストゼロで培養する力、化学反応を起こす力があります。だから常に都市は高密でなければなりません。山ほど人が集まっている渋谷だからできることがあります。
密がノーだとされる今の状況は、渋谷にとって非常にアゲインストです。でも、我々は高密であり続けることをやめるわけにはいかない。もちろん安全にね。結局、行政も企業も商店街も人へ投資をします。人のネットワークが街の最大の財産なのです。
何度もぶり返すようだけど、ほとんどの人は組織内にネットワークを作ろうとします。部長や社長に覚えられたいとか、そんなものは何の価値もないですよ。外のネットワークを活用した方がもっと儲かります。まさに「つなげる30人」の活動とシンクロナイズドしていますよ。
加生: 本日の場も、そうした人のつながりがあってこそ生まれたものですね。「渋谷をつなげる30人」の6年間を振り返る貴重な時間になったと思います。ありがとうございました。