つなげる30人新聞

「つなげる30人」の原点

1-つなげる30人の原点の写真(1)

2011年3月11日、日本で観測史上最大の東日本大震災が発生し、東北地方で最大40メートルの高さに達する強力な津波を引き起こした。

わたしは、津波による被害を見てショックを受けたが、その一方で、行政・企業・NPOのセクターの壁を越えて地域を再構築しようと努力する人々の力を見て、大きな可能性を感じた。そのなかでも忘れられないのが、「かわいそうだと思う人にはきてほしくない。社会をゼロから再創造するチャンスだとワクワクする人にだけきてほしい」という東北の地元企業の若手経営者の言葉だ。彼らは同情ではなく協創を必要としていた。わたしたちは被災地で、行政・企業・NPOのセクターの壁のない社会の未来の姿を見たのだ。

 

「つなげる30人」のアイデアは、この復興の過程で立ち現れた未来の社会の姿を「災害のない状態」でも生み出せないかという問いから生まれた。

一つのまちに関わる、行政・企業・NPOが協力し合い、そのまちをゼロから再創造するチャンスをつくる。その結果、今まで解決不能と考えられていたビジネス、経済、社会、環境のさまざまな複雑な問題を解決に導く、まさに奇跡のようなことが起きる可能性を信じて。

 

このアプローチのユニークなところは、都市や地域を変革するのに「30人から始める」ところだ。そして、30人がファシリテーターとなって、問題の当事者にコンタクトすると同時に、非当事者を自分たちのネットワークで集め、対話の場を開くことによって当事者に変えていく。「このまちを代表する30人は誰だろう?」というシンプルな問いは、地域の人たちの想像力を刺激する。

また、「この人とつなげると面白いのは誰か?」と考えながら、30人を招き入れていく過程は、そのまちの魅力を「人を通して」知ることを意味する。まちの多様な魅力を30人の顔ぶれで表現できたとき、30人のメンバー自身が、まちが初めて自分のものになったと感じる。自分のまちが、協創プラットフォームに見える瞬間である。

 

1-つなげる30人の原点の写真(2)

「渋谷をつなげる30人」第1期生のキックオフ:渋谷区長谷部区長・澤田副区長と共に

 

各地域で「つなげる30人」を始めたら、その地で必ず、十年以上は活動を続けたいと考えている。毎年新たな30人が加わっていくことが10年間続けば、300人が信頼のネットワークでつながることになる。

そのどこからでも創造的なアイデアが生まれ、実現していけるまちになると考えているからだ。そのうえ、第1期の30歳から40歳前後のメンバーは、十年経てばそれぞれの組織でかなりの要職に就いているはずだと考えると、できることはもっと増えるだろう。

 

わたしたちは、この「つなげる30人」を日本全国さらには世界に広げていきたいと考えている。2017年、スイスで「チューリッヒをつなげる30人(Zurich 30)」を考えるイベントを開いたときには、「日本では、社会課題解決のために集まった企業が、これほど高いモチベーションで楽しんで取り組んでいるのはなぜ?」となんども聞かれた。

彼らは、政府や国際的NGOが社会課題を設定し、その達成のために関連企業を一堂に集めるというアプローチをとっていたためか、参加企業はやらされ感が抜けきらず、モチベーションは低いという。

わたしが、「30人のメンバー自身が、都市の課題を設定する。そこに自社の問題意識もどんどん持ち込めるので、自分ごとになりやすい」と答えると、「課題設定する前に人を集めるのか。考えたこともなかった」とあぜんとしていた。

このチューリッヒでの質疑を通じて、「つなげる30人」の最大の特徴が、課題よりも「人にこだわる」ことであることを確信することができた。

 

そして、新型コロナウィルスの襲来である。コロナウィルスは、「多様な人がつながる」ことで人と人とを伝わって被害を広げていく。つまり、「つなげる 30人」が影響を広げていくのと同じメカニズムで伝染していくのだ。

いきおい、私たちの「つなげる対話の場」はオンラインへと急速に移行した。そして、対面での対話と、オンラインでの対話の共通点と、それぞれの強み弱みを深く理解することができた。たとえばオンラインであれば、距離を超えて対話に参加することもできるし、移動時間がなくなるので2時間のイベントに半日つぶす必要もなくなる。

これからの対話の場は、オンラインをベースに急速に拡大していくだろう。

 

また、「つなげる30人」がめざしてきた、毎年30人のネットワーク資産が蓄積していくことで、企業、行政、NPOのどこからでも、いつでもイノベーションが素早く起こせる状態ができていることが、コロナウィルス対策で証明された。

緊急事態宣言の出された渋谷では、二つの大きな課題が顕在化していた。飲食店の経営危機と、休校に伴うワーキングペアレンツの負担増加だ。

「渋谷をつなげる30人」(愛をこめて「渋30」と略すこともある)のメンバーには、飲食店のランチをサブスクリプションモデルで持ち帰りできるようにするベンチャーも、ワーキングペアレンツの子育てと仕事の両立を視点するNPOも、地域の幅広いネットワークをもつ地域密着新聞も、さらにはこういったボトムアップの活動をいつでも応援したいと思っている渋谷区役所の30人メンバーもいる。この活動は一気に加速し、その一つのアウトプットとして、「渋谷区テイクアウト・デリバリーMAP」が生まれた。

 

企業、行政、NPOのそれぞれに信頼できる友人がいれば、その地域で課題と思ったものをなんでも解決に向けて動き出せると信じて続けてきた「つなげる30人」。プログラム実施中に社会課題解決をしてくれるだけでなく、プログラム終了後もこのようにつながり、都市の新しいインフラとして機能している。それが、つなげる30人なのだと思う。

国内では、渋谷をつなげる30人に続いて、京都をつなげる30人、ナゴヤをつなげる30人、気仙沼をつなげる30人、そしてさらに、まちだをつなげる30人、横浜をつなげる30人へと広がってきている。

このムーブメントを加速するために、誰もが「(自分のまち)をつなげる30人」をスタートできるようにしていきたい。これから発信していく一連の記事を読んでいるあなたが、自分のまちで「つなげる30人」を始める人になってほしいと心から願っている。

 

 

Slow Innovation株式会社 代表取締役
野村 恭彦

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