“生きることを愛する社会”を目指すLove Life Project

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名古屋の繁華街のど真ん中に広がる久屋大通公園。南北約2kmの広大な都市公園です。ほぼ中央には名古屋テレビ塔。近年再開発も行われ、食事やショッピングに出かけたり、ふらりと散歩したり、イベントに参加したりと、多彩な楽しみと憩いの時間を過ごせるスポットになっています。

そんな久屋大通公園で、2021年の春から定期的に開催されているのが「Love Life Night Walking」。2020年度に実施された、「ナゴヤをつなげる30人」第2期から生まれた取り組みです。

ライトアップされたテレビ塔を横目にしながら、夜の久屋大通公園を3人1組で歩く。トークテーマの記されたノートを片手に。嬉しかったこと、悩んでいること、好きなもの、苦手なこと、昔の話、“生きる”ことへの思い。お互いの言葉に耳を傾けながら、寄り添い合い、自分とも向き合います。

「心がスッキリする機会になった」「純粋に楽しい時間が過ごせた」。参加した人たちからはこんな声が聞こえてきます。まちを他者との語らいの場として活用し、つながりが一人ひとりのプラスになっているこのイベント。

どんな思いからスタートし、形になっていったのか。継続的な活動を展開するプロジェクトメンバーたちは、今どんなことを考えているのか。Love Life Projectの角羽さん、櫛谷さん、長谷川さんの3人にお話を聞きました。

それぞれの原体験がつながり、歩み出した

――Love Life Projectは、「ナゴヤをつなげる30人」第2期のDay3で結成されました。テーマオーナーとして提案したのは角羽さんでしたね。どんな思いでお話をされたのでしょう。

角羽 
私は、3年前に父を自殺でなくしました。
父の死を悲しむ中で、「元気をなくし、夜も眠れなくなっていた父になにかできることがあったのでは」と自責の念を抱きもしました。私自身も苦しい経験をしたと思っています。

けれど次第に、父の人生を自殺だけで語りたくはないと考えるようになって。自殺したことも含めて、父が生きた時間のすべてを肯定し、改めて愛していきたい。そんな思いがLove Life Projectの原点になりました。

こうした経験もあって、自殺やうつは私にとっては決して他人事とは思えなくて。みんなが“生きる”ことを尊いものとして、愛せる社会になったらいい。そのための啓発活動などができないかとテーマオーナーとしてお話をしました。

それまで自死遺族の集まりでしか切り出せない話題でしたが、つなげる30人のなんでも受けいれてもらえる雰囲気に、ここで発信して知ってもらえるだけでも意味があるのかなと思えたんです。

「ナゴヤをつなげる30人」第2期Day3でプロジェクトを提案する角羽さん

――角羽さんの提案を受けて、櫛谷さん、長谷川さんとのチームができました。おふたりは最初どのように感じたのでしょう?

長谷川 
数年前にすごく近しい人がうつ病で休職したんです。復職までいろいろとお話を聞き、心の病で悩む人を身近に感じました。同じ頃、ハードな仕事で心をすり減らして休職する同年代の友人も何人もいて。

私もいろんなことを考えながら、センシティブな話題ゆえの相談のしづらさも実感しました。誰かに話すことで当事者も周りの人も心が軽くなるかもしれない。そうして生きることを愛せるようになったら素敵だなぁって。Love Life Projectは自分事にできるテーマだと思いました。

櫛谷
私は、「すべての人が自分らしく、明日を楽しみに生きていける社会」の実現を目指して活動しています。「生きることを愛せる社会」にしたいというお話は、自分の目指す社会像と通じるものだと感じました。心が弱っていては明日に楽しみを抱けませんよね。元気をなくしている人のためになにかしたいとプロジェクトに加わりました。

最初、人数の少なさとアウトプットの不明瞭さへの不安からチームになるのを断念しかけたんです。でも、角羽さんが「やっぱりやりましょう!」って声をかけてくださって。一緒にがんばってみようって心を決められました。

――3人それぞれの経験や課題感が“Love Life”のコンセプトでつながったんですね。櫛谷さんのお話にあった、一度は別々のチームになった3人が改めてチームになるのをDay3の現場で拝見しました。「このテーマでやるんだ」というみなさんの思いの強さや決意が感じられて印象に残っています。

チーム結成直後のディスカッションの様子。たくさんの人からアドバイスを得ました

安心して語らえる場にするために

――チーム結成から1ヶ月後、Day4のオープンセッションでは、Love Life Night Walkingを実施する方向性が示されました。今の実践へとつながっていくわけですが、このアイデアはどのように形になっていったのですか?

角羽
Day3の後、3人でオンラインミーティングをした際にLove Life Night Walkingの原案が出来あがりました。参考にしたのは、韓国で自殺対策で実施されたウォーキングイベントです。

「夜のまちを語らいながら歩いてはどうか」
「話しやすいようにルールやトークテーマを設けては」
「専門家の方のお話を聞く時間もつくっては」

Live Life Night Walkingのイベントの概形となるアイデアがどんどん出てきて、「これだ!」って3人ともすごくテンションが上がりましたね。

その後、オープンセッションなどつなげる30人のプログラムを通じて、専門家の方とのつながりもできました。愛知いのちの電話協会の方、カウンセラーの方、自死遺族のケアをしている方。私たちの思いを聞いていただき、安心安全な場づくりができるよう、たくさんのアドバイスをいただきました。

「ナゴヤをつなげる30人」第2期最終日の発表用スライドの表紙。Love Life Night Walkingを提案

――Love Life Night Walkingの企画を練り上げる上で、工夫や留意したのはどのような点ですか?

長谷川
トークテーマの内容やウォーキング中のルールは、専門家の方々の意見も参考にしながら何度も話し合って決めていきました。

トークテーマは、はじめましての相手でも徐々に自己開示できる順番を考えて参加者さんが選択できる形でお渡ししています。各回の終わりに「どんなテーマで話したいか」をアンケートでお聞きして、開催しながらブラッシュアップしているところです。

ルールについては、「聴いたことは他の人に話さない」「さえぎらずに最後まで聴く」「うなずきや相槌をする」といった、一緒に歩く相手への寄り添い方、話し方を“Love Lifeルール”としてまとめてイベントの最初にご案内します。

櫛谷
開催するまで、自己開示することに抵抗を感じる人もいるのではと少し不安に思っていました。もし私が主催者ではなく参加者だったら、はじめましての人と深い話をできるか心配になると思いますし。

だからトークテーマやルールは慎重に検討して、3人で試験的なウォーキングもしてみました。試しにやってみると、すごくいい時間が過ごせました。そして、第1回のLove Life Night Walkingに参加してくださった人たちが、「また参加したい」と何人も言ってくださって。続けることに自信が持てました。

Love Life Night Walkingの最後には、参加者さん同士感想を共有します

“Love Lifeな気持ち”を自分たちも楽しむ

――2021年3月以降、久屋大通公園でのナイトウォーキングだけでなく、オンライン開催や早朝開催といった形もとり、ほぼ毎月イベントを実行していらっしゃいますね。「ナゴヤをつなげる30人」第2期の最終回から約半年、ここまでの実践の中での気づきや変化があったら教えてください。

角羽
私たちも毎回、参加者のみなさんと歩いたり、お話ししたりしています。回数を重ねて、毎回ご一緒する方は変わりますが、いつでもイベントが終わった時には同じような心地よい気持ちになれる。“Love Lifeな気持ち”とでも言うんでしょうか。

テーマオーナーとして提案した時は、義務感のようなものも持ちながら、自殺をなくすための啓発ができたらいいといった考えでした。それが、最近ではこのプロジェクトが、私自信が人生を楽しむためのものになっています

辛いことがあったり、鬱々とした気持ちを抱えたりしていても、Love Lifeの活動で気持ちを新たにできる。最近、「趣味はなに?」って話をしていて、Love Lifeの活動が趣味だなと思ったんですよね。取り組む上での姿勢や暮らしの中での存在感が変わってきました。

長谷川 
いくつものトークテーマで話をしていると、他の人の言葉で視野が広がり、心が軽くなるのを感じます。角羽さんと一緒で、心がプラスに転じる“Love Lifeな気持ち”に私もなっていますね。

櫛谷 
“Love Lifeな気持ち”は私も一緒です!
それから、3人で試しに歩いてみた時から、ウォーキングするうちに地域への愛着も高まっている気がします

正直、ナゴヤをつなげる30人に参加するまで、「名古屋が好き」とか「まちの魅力」とか、あんまりピンときませんでした。それが、Love Life Night Walkingを通して、一緒にいる人たちの魅力を実感しますし、素敵な時間を過ごしている久屋大通公園が前より好きになりました。

長谷川 
私も、名古屋が好きになるきっかけになったと思います!

久屋大通公園が、楽しい記憶と一緒に思い出せる場所になりました。心のケアが必要な人にとってもやもやが晴れるひとつのきっかけになる。それは私たちのイベントの主旨のひとつですが、いろいろな人がいい思い出をつくれる場になったらと思います

誰かと話して純粋に「楽しかった!」と思ってもらえたらそれもいい。各々の気持ちに応じて元気になるために活用してもらえたら嬉しいです。

8月には名城公園で初めての早朝開催も

――主催するみなさん自身も楽しみながら、取り組みの意義を実感していらっしゃるんですね。では最後に、今後の展望について聞かせていただけますか。

長谷川 
イベントを継続しながらより多くの方に知って、参加してもらいたいです。SNSやWebの活用など、拡散の仕方をあれこれ考えています。

将来的には、Love Life Night Walkingの仕組みをパッケージ化して、他の方にイベントオーナーになっていただき、名古屋以外の地域へと広まっていくような仕掛けができたら。

とても嬉しいことに、継続的に協力したいという声も何人もの方からいただいています。お力を借りながら、これから先、誰とどんな活動を展開していくのか考え続けていくつもりです。

夜の久屋大通公演。話ながら歩いていると普段とは違うまちの姿も見えてきます

取材終わりに「この3人だから企画を形にしてこられた」と、それぞれが仲間への感謝も語ってくださった角羽さん、櫛谷さん、長谷川さん。

課題意識を共有しつつ、互いを尊重し合うチームの雰囲気が、Love Life Night Walkingの安心して多くの人が参加できる空気にもつながっているように感じました。

心のケアという大きな課題と向き合いながら、生きることを愛する社会を目指してどんな取り組みがなされていくのか。今後の展開も注目していきたい。

◆話を聞いた皆さん◆

角羽さん
名古屋市職員。2018年に父を自殺で亡くす。「生きることを肯定すること」をテーマになにかできないかと考えてきた。

櫛谷さん
教育NPO法人職員。愛知県の小学生から大学生を対象としたキャリア教育の支援を中心に、「学び合い育ち合う共同体づくり」を目指して活動している。

長谷川さん
不動産ディベロッパー勤務。東海エリアのマンションの開発業務に従事。身近な人が心の病に苦しんだ経験から活動に参加。

文章:小林 優太

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