『スタートアップと地域の可能性を対話で見い出す研究者 〜地域をつなげる時の行政的な役割、社会的な役割とは?〜』地域をつなげるイノベーター列伝 Vol.3

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地域で活躍するキーパーソンと、つなげる30人プロデューサーの加生健太朗、そしてエバンジェリストの日比谷尚武との対談形式インタビューを実施し、行政・企業・NPO・市民といった様々なセクターをつなげていくことについて考えていく連載企画「地域をつなげるイノベーター」vol.3

今回は「横浜をつなげる30人」プロデューサーの芦澤美智子さん(横浜市立大学国際商学部准教授)をゲストとしてお招きしました。
「横浜をつなげる30人」は2021年度で2期目。現在、プログラムの運営は、1期生が中心に行っています。

前編では、「横浜をつなげる30人」立ち上げの経緯や運営で心かげていることを、
後編では、自身の研究領域でもある「スタートアップ」と「つなげる30人」の関わりを、伺っていきます。

話を聴いたひと

芦澤美智子

【経歴】
公認会計士、企業再生/変革プロジェクトのリーダー等を経て、2013年より横浜市立大学国際商学部准教授。大学教員初年度より「起業体験プログラム」を実施。その活動フィールドを地域と海外に広げる。地域活動はNPO Aozora Factoryの創業に、グローバル活動は国際会議でユース代表の招待へと発展し、一連の起業家教育講座から学生起業家も生まれている。その教育活動成果が認められ、2016年、2018年、2020年と過去3回、大学から表彰されている。

学外でもイノベーション創出活動に積極的に関わっており、国内外の産学官連携を得意とする。現在は横浜を中心に、スタートアップ・エコシステム形成に力を注ぎながら、大学発ベンチャー発掘支援、オープンイノベーション支援にも関わっている。

「横浜をつなげる30人」を始めるまでの経緯

加生
早速ですが、芦澤さんの今までのお仕事や、横浜と関わるようになった経緯についてお伺いしたいです。

芦澤さん
私は大学卒業後、公認会計士を経て、現在は横浜市立大学の准教授をしています。

民間での経験が10年以上あるので、「どうやったら産業界で活躍できる人材を送り出していけるか」について、一貫して問題意識を持ってきました。特に、学生がキャンパスから外に出る経験を重視し、地域と学生が協働するプロジェクトを考えてきました。

実際に地域とつながるキッカケは、大学が隣接する金沢産業団地の人々を招待して開催したワークショップに参加したことで得ました。その後、ゼミ生が著名YouTuberとプロジェクトを企画し、金沢産業団地の協力で公開されたYouTube動画が400万viewを超えることとなりました。「横浜市立大学の学生はすごい!」と評判の成功事例となりました。2015年のことです。

ただその後に大変だったのは、周囲の方の期待が過度に高まり「次は何をやってくれるの?」と言われるようになったことでした。しかし、そんな大きなヒット企画が学生だけのアイデアで次々と出てくるはずはありません。

悩んだ結果、独自で「フューチャーセッション」の手法を勉強し、2016年に対話型ワークショップを行いました。産学官から総勢100名ほどが集まったワークショップは今思い返しても大きなエネルギーに満ち、ここで「Aozora Factory」というプロジェクトが生まれました。

https://aozorafactory.com/about/history.php

2016年10月に開催された第1回Aozora Factoryは、秋空の下、地元中小企業、大企業、横浜市立大学、横浜市役所のあらゆる世代の人々が交流し、作り物ではない対話が実現されました。「美しい」と思える風景が見られました。
Aozora Factoryは毎年1000人ほどが集まるイベントとなり、2018年にはNPO法人化され、現在までに8回の開催がされています。

Aozora Factoryの共同創業者としての活動を通じて、横浜の産学官のキーパーソンとの関係性を構築していきました。そして、様々な人との日々の会話から、横浜の課題を認識することになります。それは「横浜からイノベーションを創出するにはどうしたらよいか」という課題です。そこで2018年ごろから、学者として「スタートアップ・エコシステム」の研究に本格的に着手しました。

2019年に内閣府が「スタートアップ・エコシステム拠点都市形成」政策を発表し、横浜市でもこの頃に「イノベーション都市横浜宣言」をおこないました。2020年には関内にスタートアップ支援拠点「YOXOBOX」が設立されました。

これら一連の政策によって、国や横浜市のイノベーション創出の意志が明らかにされましたが、一方で私は、それを支える人々のネットワーク、コミュニティ形成に課題があると感じていました。そのタイミングで私は、「つなげる30人」を仕掛けられている野村さん、加生さんと出会いました。
野村さん、加生さんから「つなげる30人」の話をお聞きし、この取り組みは横浜のイノベーションの土台となるコミュニティ作りになると確信しました。

加生
お話を伺って、点と点が線につながったように思います。
ちょうど「横浜をつなげる30人」の準備を開始したタイミングは2020年の春で、まさにコロナ禍の始まりと重なりましたね。

芦澤さん
プログラムが開始される2020年10月までには、大学教育現場であらゆるオンラインツールを試していて、300人の大規模授業でもオンラインで対話が成り立つことは実感として持っていましたので、コロナ禍だから運営が難しいという気はしていませんでした。

ただ大変だったのは、スポンサーを探すことでした。つてのある企業にスポンサーになって欲しいとお願いして回ったのですが、ゼロイチのプロジェクトは過去実績がないですから協力を得るのが難しいです。そこでまず、横浜市と大学の地域プロジェクト助成事業に応募し採択され、それを梃に、スポンサーから協賛をいただくことができました。

実際にプログラムを運営してみて感じた事

加生
実際にプログラムを運営されてみていかがだったでしょうか。
またプロデューサーに必要な役割をどのようにお考えでしょうか。

芦澤さん
一期目の途中もあまり不安はありませんでした。私自身はプロジェクトに慣れているので、ビジョンが共有されていれば、どう転んでもいいという感覚でいました。

ただ、様々なバックグランドの人とプロジェクトをするわけですから、摩擦は当然生まれます。また、具体的なゴールは設定していませんので、参加者の中には不安を感じている人もいました。私の役割は動揺せずに対話しフォローすることでした。私自身が「なんでも受け入れる」姿勢を見せることで安心を作りだし、そして参加者1人1人が何がしたいのかを言葉にして表現できるよう、寄り添うようにしました。大学のキャンパスで「オープンドア」の時間を設けて、1 on 1の対話の時間も作りました。

加生
まさに心理的安全性を保つことにフォーカスされていたんですね。
特に、現在2期目を運営していますが、1期生が運営や現場のファシリテーターに立候補してくれて、本当に素晴らしいなと思っています。

芦澤さん
前述のAozora Factoryでの経験から「つなげる30人」はどうやって継続するかを先に考えていました。それが、今の組織構造や体制につながっていると思います。
そして加生さんは私の微妙に雑な感じがいい、と誉めてくださいましたね。(笑)

日比谷
その雑さこそ、遊びというか、みんながものを言う余地なんじゃないですかね。

芦澤さん
私(先生)が「雑」であることで、学級委員長的な人が生まれたり、それをサポートする人も出てきますね。メンバーの主体的が生まれるのだと思います。
「つなげる30人」のような自主的組織では、「自分もできるかもしれない」「楽しいかもしれない」という考えが土台にあること、それが継続の鍵だと思います。

また、誰か特定の人がリーダーとして居続けるのではなく、「次の代は次の人たちがやる」と決めていれば、次に引き継ぐための卒業の感覚も生まれます。これは私が大学のゼミを運営する上で身につけた考え方ですね。大学は必ず卒業があるので。実は継続するエコシステムを見ると「先輩が後輩を教える」、つまり新陳代謝の仕組があるのです。

加生
是非、このモデルを「横浜モデル」として全国に展開していけたらと思っています。

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